工業の立地論とは?ウェーバーの5分類から鉄鋼・繊維工業の立地移動まで解説

ルナ
ルナ

セメント工場って山の近くにあることが多いよね。ビール工場は都市の近くにあるし。これって偶然じゃないよね?

アトラス
アトラス

よく気がついたね!工場の場所は、実はいくつかの法則に従って決まっているんだ。それを体系的に整理したのがドイツの経済学者ウェーバーの「工業立地論」だよ。今日はこれを中心に、工業の立地について見ていこう。

工業の立地因子と立地条件

企業は原料や材料を工場で加工して製品をつくり、市場で販売します。その際、原料産地と市場の位置関係を考え、製品を輸送する費用や生産にかかる費用が最も節約できる場所に工場を立地しようとします。

このとき、輸送費のように場所によって変動し、立地の決定に直接作用するものを「立地因子」といいます。立地因子には、労働費・地代・用水費・電力費などがあり、工業の種類によって重視される費目が異なります。一方、地形や気候、交通の利便性や労働力確保の容易さなど、工業の立地に影響する条件を「立地条件」といいます。立地因子と立地条件は混同しやすいですが、「費用として直接作用するもの(立地因子)」と「立地しやすい・しにくい環境を与える背景条件(立地条件)」と区別して理解するとよいでしょう。企業は立地因子を第一に考え、そのうえで立地条件の影響も加味して立地を決定します。

ウェーバーの工業立地論

ドイツの経済学者アルフレッド=ウェーバーは、工業生産にかかる費用のうち、原材料や製品の輸送費が最小となる場所に工業が立地する可能性を論じました。その要点は次のとおりです。原料重量と製品重量を比べて、前者が大きい場合には工場は原料産地に立地するとしました。これは原料を運ぶよりも、加工後の製品を運ぶほうが輸送費を節約できるためです。逆に原料がどこでも入手しやすい場合には、製品の需要先が多い消費市場に立地するとしました。そして、輸送費が最小となることを原則にしたうえで、労働費や地代などの影響も加味して工場の最終的な立地場所が決定されるとしています。現代ではこの理論を参照しながら、実際の立地決定をより複合的に判断しています。

立地による工業の5つの分類

種類立地の特徴工業の例
原料指向型工業原料重量が製品重量より大きいため、輸送費を最小にする原料産地に立地するセメント工業(山口県宇部市など)・製鉄業・製紙・パルプ(苫小牧・富士など)・窯業(瀬戸・多治見など)・ワイン(ボルドーなど)
市場指向型工業水や空気など、どこでも得られる原料が製品重量の大部分を占め、製品の輸送費を最小化するため市場の近くに立地するビール工業・清涼飲料水工業(首都圏・京阪神など)・出版・印刷業(東京・ニューヨーク)・高級服飾業(パリ・ミラノ)
労働力指向型工業安価で豊富な労働力(または高度な技術・知識をもつ労働力)を求めて立地する衣服・家電の組み立て(人件費が安い発展途上国)・伝統的工芸品(京都・金沢)・知識集約型産業(シリコンヴァレー)
集積指向型工業関連する多数の工場が一定の場所に集積することで、輸送費や取引費用などが節約できる自動車工業(愛知県豊田市周辺・デトロイト・ミュンヘン)・機械工業
交通指向型工業良好な輸送条件(輸入港・空港・高速道路インターチェンジ付近)を求めて立地する石油精製・石油化学(太平洋ベルト・フォス)・鉄鋼(太平洋ベルト・フィラデルフィア・ポハン)・集積回路IC(九州)

市場指向型工業のうち、東京やニューヨーク・パリのように情報が集まり学術・文化の中心でもある大都市には、出版・印刷業のほかファッションや流行に敏感な服飾業も立地します。これは情報や流行への即応が競争力に直結するためです。また労働力指向型工業のうち、シリコンヴァレーのような知識集約型産業の集積は、高度な技術・知識をもつ人材の確保が立地の核心にある点で、単純な低賃金労働とは性質が異なります。

ルナ
ルナ

交通指向型工業って、空港の近くにある工場のこと?

アトラス
アトラス

空港もそうだけど、輸入港の近くというのも大事だよ。日本の鉄鋼や石油精製・石油化学などの工業は、立地論上では輸入港が原料産地とみなされるため、太平洋ベルトの市場近くに開発された輸入港に立地するものが多いんだ。集積回路(IC)のように付加価値が高くて製品が小さく軽い工業や、研究者・技術者の往来が多い先端技術産業は空港のそばに立地しやすく、九州に多くのIC工場が立地しているのはその典型例だよ。

鉄鋼業の立地移動

工業の立地は時代とともに変化します。その典型が鉄鋼業です。鉄鋼業は産業革命以降、イギリスのミッドランド地方やドイツのルール地方など、炭田地域を中心に発達しました(原料指向型)。これは当時、鉄鋼生産には大量のコークス(石炭)が必要だったからです。しかし、国内原料の枯渇と安価な輸入原料への依存が進むと、先進国では輸入に便利で市場に隣接した大都市近郊の臨海部に立地が移動しました(交通指向型)。一方、中国やインドなどの発展途上国では、現在でも原料となる鉄鉱石の産地に立地することが多く、アメリカ合衆国やEU諸国では設備の老朽化などにより競争力が低下し、現在の生産の中心は東アジアに移っています。

繊維工業の立地移動 — グローバルな生産拠点の移転

繊維工業は総じて労働力指向型の工業で、なかでも縫製は人手を必要とするため、人件費が安く労働者を確保できる地域に立地します。1980年代以降、先進国から発展途上国への生産拠点の移動が顕著になり、中国が世界最大の繊維工業国に成長しました。しかし近年は、中国の賃金水準が上昇したことで、中国よりさらに人件費が安いベトナムやミャンマーへの生産拠点の移転が進んでいます。こうした動きは、工業のグローバル化の中で次々と生産拠点が移転し続けていることを示しており、経済発展の段階が異なる国々の間で分業が深化していることの表れでもあります。

サプライチェーンと工業立地の現代的課題

現代の工業では、単一の工場が完成品をつくるのではなく、原材料の調達から製品の販売まで複数の企業が連携する「サプライチェーン(製造から販売までの供給の連鎖)」が構築されています。自動車産業では数万点の部品が必要で、それぞれを担う関連企業が特定地域に集積することで、輸送費や取引費用が節約されています。

工業立地論は災害を想定していませんが、現実には立地によって大きな被害を受けることがあります。日本は特に自然災害が多く、被災後に業務を円滑に再開させるためには、サプライチェーンを想定される被害を念頭に構築する必要があります。例えば、工場を東日本と西日本に分散させることや、部品・資材を単一のメーカーに頼らず、海外を含む複数のメーカーから調達するしくみを築いておくことが有効な手段とされています。東日本大震災では、特定の工場の被災が自動車・電子機器などのサプライチェーン全体に深刻な影響をもたらしたことから、分散調達の重要性が改めて認識されました。

まとめ

  • 工業の立地を決める「立地因子」(輸送費・労働費・地代など)と、立地に影響する「立地条件」(地形・交通の利便性など)の2つを区別することが大切
  • ウェーバーの工業立地論は、輸送費が最小となる場所に工業が立地するという考え方を基本とし、労働費・地代なども加味する
  • 工業の立地は「原料指向型・市場指向型・労働力指向型・集積指向型・交通指向型」の5つに分類できる
  • 鉄鋼業は炭田立地(原料指向)→臨海立地(交通指向)→東アジアへの中心移動、と立地が変化してきた
  • 繊維工業は労働力指向型の代表例で、先進国→中国→ベトナム・ミャンマーへと人件費を追って生産拠点移動が続いている
  • 現代では災害リスクを考慮したサプライチェーンの分散・多元化が重要な経営課題となっている
アトラス
アトラス

次回は、世界の主な工業地域の発展と構造変化について見ていこう!

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