
アトラス、中国って「世界の工場」って言われてるよね。でも昔は工業って、ヨーロッパやアメリカが中心だったんじゃないの?

そうなんだ。世界の工業の中心は、産業革命から現在まで大きく変化してきたんだよ。今日は、アジアを中心とした新興工業国の台頭と、世界の工業地域の構造変化を見ていこう。
工業生産と国民総所得(GNI)の関係
工業生産が大きい国ほど重化学工業の割合が高く、逆に小さい国では軽工業の割合が高い傾向があります。重化学工業や先端技術産業が生み出す付加価値は大きいため、そうした産業が発達している先進国では1人あたりの国民総所得(GNI)が高くなります。軽工業は重工業のように高度な技術を必要とせず大がかりな設備もいらないため発展途上国でもみられますが、付加価値は総じて小さくなります。つまり、どの種類の工業が中心かによって、その国の経済力が大きく左右されるのです。中国は国としての工業生産額は世界最大ですが、1人あたりのGNIは先進国の水準を下回っています。これは、労働集約的な軽工業や低付加価値の組み立て工業の比重がまだ大きいためです。
アジアNIESの台頭 — 輸出指向型工業化
日本を除くアジア諸国では、工業の発達が後れていましたが、第二次世界大戦後は各国とも工業化に向けて動き始めました。当初は外国から輸入していた繊維や雑貨などの消費財を国内で生産する「輸入代替型の工業化」が進められましたが、国内市場規模が小さく経済発展に結びつかなかったため、1960年代からは輸出向けの部品生産や単純な組み立てなどを行う「輸出指向型の工業化」が始まりました。
韓国・台湾・ホンコン(香港)・シンガポールは、積極的な工業化政策によって輸出が増大し、「アジアNIES(新興工業経済地域)」と呼ばれるようになりました。この工業化は、1970年代に外国から資本と技術を導入し、豊富な労働力と比較的安い賃金水準を利用しながら、積極的な産業育成と輸出の拡大に取り組むことで実現されました。韓国は技術力の向上と工業生産力の拡大が顕著で、現在も世界有数の船舶輸出量を誇るとともに、電機・電子や自動車の分野でも韓国企業の躍進が注目されています。台湾は電機・電子工業において高い国際競争力をもっています。
ASEAN諸国の工業化 — 輸出加工区と工業団地
アジアNIESに続いて、マレーシアやタイなどのASEAN諸国でも輸出指向型の工業化が進められました。これらの国々では、雇用機会の増大や技術移転などを期待して、「輸出加工区」を設けたり工業団地を造成したりすることによって外国企業を積極的に誘致しました。輸出加工区とは、そこで生産される製品の輸出を条件に免税などの優遇措置を講じ、企業の立地を促進する地区のことです。多くの日本企業もそうした工業団地に進出し、ASEAN諸国の工業化に寄与しています。
近年は人口規模の大きいインドネシア、経済の自由化が進むベトナム、外国資本の導入を進めるミャンマーなどでの経済成長や工業化が注目されています。これらの国々では東京を100とした場合の製造業の賃金水準が5〜10程度と極めて低く、労働集約的な工業の進出が続いています。
BRICSの工業化
近年では、ブラジル・ロシア・インド・中国・南アフリカ共和国の5か国をまとめた「BRICS」の工業化が注目されています。これらの5か国は広大な国土面積や人口規模・資源埋蔵量の大きさに加え、経済の自由化推進・投資の流入などの点で共通性があり、それらが近年の経済成長の要因となっています。
| 国 | 工業化の特徴 |
|---|---|
| 中国 | 世界最大の人口を市場・労働力として活用。外国企業の進出が増加し、世界一の工業付加価値額を生み出す「世界の工場」に成長 |
| インド | IT産業をはじめとする知識集約型産業の発展が注目される |
| ブラジル | 自動車産業や食品工業が発達。多国籍企業の進出も多い |
| ロシア | 石油・天然ガス・鉱産資源が豊富。重工業・軍需産業の基盤がある |
| 南アフリカ共和国 | 金・プラチナ・ダイヤモンドなどの鉱産資源に恵まれ、アフリカ有数の経済大国。ドイツや日本などの自動車メーカーが進出し、自動車が輸出品目第1位(2018年) |
繊維工業 — アジアと欧州の対照的な姿
繊維工業は、糸をつくる紡績・布をつくる織物・衣服などを縫う縫製の三つの部門からなります。縫製は労働集約的な側面が強く、人件費が安い地域に立地する傾向があります。1980年代以降、先進国から発展途上国への生産拠点の移動が顕著になり、中国が世界最大の繊維工業国に成長しました。近年は中国よりさらに人件費が安いベトナムやミャンマーなどで輸出加工区や工業団地の整備が進められ、工業のグローバル化のなかで次々と生産拠点が移転しています。また先進国のアパレルメーカーは、商品の企画・開発・販売に特化し、生産を他社に委託するファブレス企業化が進んでいます。
一方、ヨーロッパのアパレル産業は対照的で、長年にわたって培われた職人の高い技術によって生産される付加価値の高いブランド品に特化しています。フランスのパリやイタリアのミラノなどには歴史のあるブランドが集中しており、世界のファッション産業をけん引しています。これらのブランド品は全般に価格が高く、その名声や知名度・信頼に価値の源泉があります。衣服のみならずバッグや靴などの皮革製品、各種装飾品・宝飾品まで扱うブランドもあり、近年はEUに加盟した東ヨーロッパに生産工場を置くブランドも現れています。
電気機械工業と自動車産業の現状
電気機械工業は、家電から重電まで多種多様な製品を製造します。家電の組み立ては労働集約的な側面が強いため、中国や東南アジアで生産量が増加しています。日本は1990年ごろまで家電の世界的な生産国でしたが、グローバル化が進んで生産機能の多くはアジアの新興工業国に移りました。現在、世界の電気・電子機器メーカー総収入の上位企業はアメリカ合衆国・韓国・中国・台湾・日本などに集中しています。パソコンやスマートフォンなどをつくる電子機器メーカーは、製品の生産を自社から切り離す傾向を強め、自社で製造施設をもたない「ファブレス企業」が、生産委託を受ける「EMS(エレクトロニクス受託製造サービス)企業」に製造を委託する分業体制が広がっています。
自動車産業は数万点の部品を組み立てる総合組立工業であり、繊維・鉄鋼・石油化学・電気機械などの各工業との分業関係がきわめて複雑です。最終組み立て工場を中心として関連する多数の工業が特定の場所に集積する傾向があり、愛知県豊田市周辺への自動車関連工場の高度な集積がその典型例です。現在、世界最大の自動車生産国は中国で(2019年で世界の約28%)、世界の主要自動車メーカーはいずれも多国籍企業として複数の国々に生産・販売拠点を置いています。また、環境意識の高まりから電気自動車(EV)への転換が積極的に推し進められ、現在中国が世界最大の電気自動車保有国となっています。
日本の工業の発達と変化
日本は1960年代に高度経済成長を成し遂げ、先進工業国として世界に知られるようになりました。鉄鋼・石油化学などの素材型工業と、電気機械・自動車などの機械工業が発展し、関東南部から九州北部にかけての「太平洋ベルト」に集中しました。1980年代には日本の工業製品の輸出が急増し、アメリカ合衆国やヨーロッパとの深刻な貿易摩擦が生じました。これに対して生産拠点を海外に移す日本企業が増え、1985年以降は円高や国内人件費の高騰により、多くの日本企業がアジア諸国に進出しました。企業の海外進出に伴って国内の工場数や従業員数が大幅に減少する「産業の空洞化」が起こり、現在は付加価値の高い知識産業への転換が求められています。
まとめ
- 重化学工業・先端技術産業が盛んな先進国ほど1人あたりGNIが高く、軽工業が中心の発展途上国は付加価値が小さい
- 韓国・台湾・ホンコン・シンガポールがアジアNIESとして工業化に成功。輸出指向型の工業化と外国からの技術・資本導入が共通の特徴
- ASEAN諸国は輸出加工区・工業団地の整備で外国企業を誘致し、工業化が進んだ
- BRICSの中でも中国は「世界の工場」として世界一の工業付加価値額を生み出すまでに成長した
- 繊維工業は労働力指向型で、アジア発展途上国への生産拠点移転が続く。ヨーロッパは付加価値の高いブランド品に特化
- 電気機械工業ではファブレス企業とEMS企業の分業が拡大。自動車産業は多国籍企業化と電動化(EVシフト)が進行中
- 日本は高度経済成長後、産業の空洞化を経て付加価値の高い知識産業への転換を進めている

次回は、現代の先端技術産業と情報通信ネットワークについて見ていこう!


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