
アトラス、前回「自給的農業」っていう言葉が出てきたよね。これって、自分たちが食べるために作る農業ってことだったよね?

そうだよ。自給的農業は、農産物の流通や貿易が発達する前から世界各地で営まれてきた、地域固有の農業形態なんだ。今日は、自給的農業に含まれる5つの形態を、自然条件と結びつけながら見ていこう。
自給的農業とは
各地で発達した伝統的農業は、それぞれの地域の自然条件や社会条件に応じて、その地域固有の農業形態を発達させてきました。伝統的農業はもともと自給的農業として成立しましたが、農産物流通の発達とともに、販売を目的とした商業的な性格をもつ地域も増えています。代表的な形態として、遊牧・焼畑農業・粗放的定住農業・集約的稲作農業・集約的畑作農業の5つがあります。
遊牧 — 乾燥・寒冷地域の移動牧畜
遊牧は、家畜とともに、自然に生育する草と水を求めて広い範囲を移動する牧畜です。乾燥地域や寒冷地域などでは、高低差をあまり伴わない水平移動が行われるところもあれば、山と谷を行き来する垂直移動がみられるところもあります。
| 地域 | 主な家畜 |
|---|---|
| 中央アジア〜北アフリカの砂漠やステップ | らくだ・羊・やぎ |
| モンゴル | 馬 |
| 北極海沿岸(ツンドラ・タイガ) | トナカイ |
| チベット高原 | ヤク |

遊牧民の暮らし方も特徴があるんだよね?

そうだね。遊牧民は血縁による組み立て式のテントに住む集団であることが多いんだよ
焼畑農業 — 灰を肥料にするサイクル農業
焼畑農業は、アフリカの中南部やラテンアメリカの熱帯雨林、東南アジアなどで行われる農業です。森林や草原に火を入れてその灰を肥料とし、キャッサバ・陸稲・雑穀・とうもろこし・タロイモ・バナナなどを栽培します。

でも、焼いた土地ってずっと使えるの?

ちゃんと自然に休む時間をあげる仕組みなんだけど、最近は変化している地域もあるんだ。
伝統的な焼畑農業では、作物を変えながら数年間栽培した後、雑草の侵入や地力の低下によりその土地を放棄します。長期間耕作を放棄して植生を回復させてから、再び火を入れて整地し、耕作を行うというサイクルを繰り返します。このサイクルが長く、規模が小さければ、自然環境にかかる負荷も小さくなります。ただし近年は、商品作物を目的として同じ作物を連続して栽培する畑への転換や有用樹の植林が進み、焼畑農業が急速にみられなくなった地域もあります。
粗放的定住農業 — 焼畑より定着性を強めた畑作
粗放的定住農業は、焼畑農業に比べて定着性を強めた畑作農業で、耕地は一定の場所に固定されます。焼畑農業と同様に自給的な作物を栽培するのに加えて、東南アジアではココヤシ、西アフリカではカカオなどの商品作物も栽培されています。

焼畑がずっと続いていくと、こうやって定着していく地域もあるんだね。

そう。同じ自給的農業の中でも、土地の使い方の度合いが少しずつ変わっていくイメージだね。
集約的稲作農業 — モンスーンアジアの稲作
集約的稲作農業は、季節風(モンスーン)の影響を受けて降水量が多く、夏に高温になる東アジアから南アジア・東南アジアにかけて、灌漑が発達し、一面に水田が開かれている地域でみられます。

「集約的」ってどういう意味なの?

単位面積あたりに多くの労働力を投入することを「集約的」と呼ぶんだ。アジアの稲作は、まさにその代表例だよ。
この地域は人口密度が高く、狭い耕地に多くの労働力が投入される労働集約的な稲作が行われています。世界の米の約90%がアジアで生産されており(2019年)、タイやベトナムのように商業的な生産を行い、米の輸出も盛んな国もあります。丘陵地では、棚田のように水田が階段状につくられる地域もみられます。
集約的畑作農業 — 稲作地域より乾燥した地域の畑作とオアシス農業
集約的畑作農業は、アジアで降水量が比較的少ない地域に広がっています。中国東北部のこうりゃん畑作地域や、インドのデカン高原における綿花栽培などが代表例で、稲作地域と同様に、労働集約的な生産が行われているのが特徴です。

稲作地域と畑作地域は、何で分かれているの?

やっぱり降水量や土壌の性質が大きく関係しているよ。稲作には十分な水が必要だから、降水量の多い地域に集中する。それに比べて畑作地域は、雨が少なくても育てられる、こうりゃんや綿花などが選ばれているんだ。
一方、広大な砂漠やステップでは農業生産は困難ですが、河川から水を地下水路で引いて灌漑することにより、集約的な畑作農業が可能になります。そのため、河川に沿った低地や湧水地などにあるオアシスを中心に、なつめやし・小麦・ぶどうなどを栽培する畑作農業(オアシス農業)が営まれています。

オアシス農業も、集約的畑作農業の一種なんだね。

そう。乾燥地域の中でも、水が確保できる場所に集中して農業が行われているという点では、同じ「集約的」な性格を持っているんだよ。
自給的農業5形態の一覧表
| 形態 | 主な分布地域 | 代表的な作物・家畜 |
|---|---|---|
| 遊牧 | 中央アジア・北アフリカ・モンゴル・北極海沿岸・チベット高原など | らくだ・羊・やぎ・馬・トナカイ・ヤクなど |
| 焼畑農業 | アフリカ中南部・ラテンアメリカ・東南アジアの熱帯雨林 | キャッサバ・陸稲・雑穀・とうもろこし・タロイモ・バナナなど |
| 粗放的定住農業 | 東南アジア・西アフリカなど | 自給的作物に加え、ココヤシ(東南アジア)・カカオ(西アフリカ)などの商品作物 |
| 集約的稲作農業 | モンスーンアジアの沖積平野 | 米(世界の米の約90%を生産) |
| 集約的畑作農業 | 中国東北部・インドのデカン高原、砂漠・ステップのオアシスなど | こうりゃん・綿花・なつめやし・小麦・ぶどうなど |
まとめ
- 自給的農業には「遊牧・焼畑農業・粗放的定住農業・集約的稲作農業・集約的畑作農業」の5つの形態がある
- 遊牧は乾燥・寒冷地域で家畜とともに水平・垂直移動を行う牧畜
- 焼畑農業は森林や草原に火を入れて灰を肥料にし、長期間休耕して土地を移すサイクル農業
- 粗放的定住農業は焼畑より定着性を強めた畑作で、ココヤシ・カカオなどの商品作物も栽培される
- 集約的稲作農業はモンスーンアジアの沖積平野に分布し、世界の米の約90%を生産する
- 集約的畑作農業は稲作地域より降水量が少ない地域(中国東北部・デカン高原など)に分布し、灌漑が可能な砂漠・ステップのオアシスでは、なつめやし・小麦・ぶどうなどを栽培するオアシス農業もみられる


コメント